大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所一宮支部 昭和58年(ワ)240号 判決 1987年5月29日

原告 加藤勇

右訴訟代理人弁護士 鍵谷恒夫

同 矢島潤一郎

被告 光田合成こと 光田信夫

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 織田幸二

主文

一  被告光田合成こと光田信夫は原告に対し、金二二〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告和光化成工業株式会社は原告に対し、金一六五万円及びこれに対する昭和五八年一二月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。

五  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、請求原因3記載の家族と共に肩書住所地所在の自己所有の土地建物(以下「原告敷地」、「原告建物」という。)に居住していたが、現在は家族と共に一時的に愛知県一宮市萩原町萩原字中道八四番地の市営住宅に避難している。

2  被告光田合成こと光田信夫(以下「被告光田」という。)は、原告建物の西側に隣接する工場において、昭和四八年ころからビデオボックス等のメタリック塗装業を営み、被告和光化成工業株式会社(以下「被告会社」という。)は被告光田の親会社でこれに対する唯一の発注者として、被告光田に対し前記塗装の仕事を発注し、自らもこれによって高利潤を上げている。

3  被告光田は、昭和四八年ころから、メタリック塗装の際生ずるアルミ粉と有機溶剤から成る大量の粉じん(以下「本件粉じん」という。)を、工場屋根の排気口から深夜を除いて絶え間なく大気中に排出し、その結果原告及びその家族に次の被害を与えている。すなわち、

(一) 健康被害

(1) 原告(昭和一八年八月二一日生)は昭和五六年ころから両手足のしびれ、胸の痛み、たん、気管支炎が頻発するようになった。

(2) 妻トキ子(昭和二二年九月一五日生)は昭和五六年六月ころから両手足のしびれ、気管支炎が頻発するようになった。

(3) 姉一子(昭和一〇年一〇月二八日生)は昭和五六年ころから手足のしびれ、心臓病などが発生するようになった。

(4) 長男隆雄(昭和四七年一月一三日生)は昭和五六年ころから気管支炎、アレルギー性鼻炎が頻発するようになった。

(5) 長女由美子(昭和四八年一二月一日生)は昭和五六年ころから気管支炎が頻発するようになった。

(6) 二女由紀子(昭和五五年二月一四日生)は虚弱体質になった。

(7) 亡母きぬ(明治四三年二月二六日生、昭和五七年八月二〇日死亡)は昭和五六年ころから気管支炎で悩み、多発性骨髄腫で死亡した。

(二) 生活被害等

本件粉じんは原告敷地上へ浮遊・降下するばかりか、原告建物内へも侵入・浮遊・降下し、室内を汚損している。このため真夏でも戸、窓を開放することができず、たまりかねて自動車で近くの尾張病院駐車場へ避難するほどであり、堆積した粉じんの掃除に多くの労力を費やしたり、強い刺激を伴う悪臭に悩まされたりしている。また副業としての農作業の天火乾燥のために原告敷地を利用することができなくなったし、原告敷地の地価が下落した。

4  原告は、被告光田に対し早くからこれらの被害を訴え、粉じん排出の防止を求めたが、被告光田はこれに全く耳を傾けなかった。そこで原告は、昭和五七年六月一宮人権擁護委員会へ救済の申立をなし、昭和五七年八月妻と共に愛知県公害審査会へ調停の申立をなし、昭和五八年四月一宮簡易裁判所へ粉じん排出差止の調停の申立をなしたが、被告光田は敢えて粉じん排出を止めようとしなかった。

5  被告光田は、その工場の排出する粉じんが原告一家に前記被害を与えていることを早くから知っていたから、右被害の発生を防止するため適切な措置を採るべき注意義務があるのに故意にこれを怠った。

被告会社は、昭和五六年二月ないし四月ころには、被告光田の工場から排出される粉じんが原告一家に被害を与えていることを知っていたから、被告光田の親会社でありかつ唯一の発注者として、被害の発生、拡大を防止するよう被告光田を指導・監督・援助し、あるいは発注を差し控えるべき注意義務があるのに、敢えてこれを怠った。

6  原告は、原告自身及び家族の被った前記の健康被害、生活被害等により、多大の精神的苦痛を受けたばかりか、本件粉じんによる被害を防ぐため、雨戸の透き間に目張りをしたり、原告建物北側をビニール製シートで覆ったり、空気清浄器を設置したり、借家あるいは市営住宅へ避難したり、原告建物を移築するための手付金を支払ったりしてその費用を支出し、また右避難先は手狭なため機械を設置できずに妻の内職の収入を失わせ、天火乾燥が利用できなくなって農業収入が減少する等の損害を被った。

これらにより被った苦痛を金銭で慰謝するには二〇〇〇万円が相当である。

また、これを訴求するには弁護士費用として少なくとも二〇〇万円を必要とする。

7  よって、原告は被告らに対し、民法七〇九条、七一九条に基づき二二〇〇万円及びこれに対する本件訴状が被告らに送達された日である昭和五八年一二月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1のうち、原告一家がその主張の市営住宅に移転していることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2のうち、被告光田が塗装業を営んでいること及び被告会社が被告光田に対しメタリック塗装の仕事を注文したことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3のうち、メタリック塗装の際生ずる粉じんはアルミ粉と有機溶剤から成ること及び亡母きぬがその主張の日に死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4のうち、原告(及びその妻)がその主張の各調停の申立をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。なお、被告らは独立の事業主体で、被告会社は資金的にも被告光田の親会社ではない。

6  同6の事実は否認する。

三  被告らの主張

1  粉じんについては、ばい煙、ばいじん等と異なり法令上も条例上も排出基準、環境基準の定めはなく、粉じん発生施設の定めに該当する一定のものについてその構造並びに使用及び管理に関する基準(以下「施設基準」という。)を定めて規制されているにすぎない。そして、塗装に用いる吹付塗装機は、一機当りの吹付能力が一時間当り三〇リットル以上のものに限り愛知県条例、同施行規則において粉じん発生施設と定められ、「1粉じんが飛散しにくい構造の建物内に設置されていること、2集じん機が設置されていること、3前各号と同等以上の効果を有する措置が講じられていること、」の各号のいずれかに該当することがその守るべき施設基準とされているところ、被告光田が用いている吹付塗装機は一機一時間当りの吹付能力が三〇リットル未満のスプレーガンであって能力的に右の粉じん発生施設に該当しないうえ、工場建物内にて粉じん処理装置(以下「ブース」という。)を設置した状態で使用されているので右の施設基準にも合致するものである。

2  被告光田は、昭和五五年ころ粉じん被害が生じていることを知って以来、一一台あるブース及びスプレーガンのうち五台の使用を中止し、従来のブースに改良を重ね、被告会社の協力のもとに塗装の対象物を小型化した。また昭和五九年八月ころ及び昭和六〇年五月の二回にわたる工事でサイクロン及び乾式フィルター方式の新しい集じん装置(以下「新装置」という。)を二〇五〇万円の巨費を投じて完成させた。以来、被告光田の工場からの粉じんの排出はほぼ完全に防止された。

第三証拠関係《省略》

理由

一  被告光田に対する請求について

1  侵害行為

《証拠省略》を総合すると、被告光田は肩書住所地所在の工場において昭和四六、七年ころから個人で塗装業を営んでいるが(同被告が塗装業を営むことは当事者間に争いがない。)、右工場屋根の排出口から空気と共に排出される粉じんの量が昭和五五年ころから増加し、その東側に隣接する、原告が所有し原告及び請求原因3記載のその家族がそれ以前から居住していた原告敷地及び木造二階建の原告建物が、浮遊・降下する粉じんにさらされるようになったこと、右粉じんは、同被告がメタリック塗装をなす際使用する吹付塗装機から飛散したアルミ粉及び有機溶剤であり(右塗装の際これらの粉じんを生ずることは当事者間に争いがない。)、強い刺激のある悪臭を帯びているうえ、これを吸入することによって原告及びその家族に対し、いらいらや、気持が悪くなる。のどが痛くなる、せきやたんが出る等の一般的な健康上の被害、また夏でも戸、窓を開放することができない、粉じんが室内へ侵入堆積し、家具等が汚損され、掃除も大変である等の生活被害、原告敷地での天火乾燥ができない、原告敷地の地価が下落するなどの被害を与えたことが認められ、これに反する証拠はない。

原告の被害に関する請求原因3(一)記載の主張中その余の点については、《証拠省略》によっては未だこれを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  違法性

《証拠省略》を総合すると、右粉じんの排出は、被告光田が昭和五五年三月ころから、塗装の対象物を従前の塗装物より大きいビデオボックスに変更したことなどに伴い顕著になったもので、塗料の使用量が最も多かった昭和五六年ころをピークとし、原告が本訴を提起した昭和五八年一二月ころまで継続していたこと、昭和五六年四月一四、一五日の両日愛知県がなした実態調査によると、被告光田の工場の排出口から排出された粉じんの排出濃度は等速吸引法によりブース一台について測定した平均値が、摂氏零度一気圧に換算した排出された気体一立方メートル当り〇・〇三四グラム、ブース一台が排出する粉じんは一時間当り平均一五三・二グラムであって、被告光田は昭和五六年ころの最盛期には一一台あるブースの全部を使用していたこと、被告光田の工場周辺は織物工場と住居等が密集して混在する地域であるところ、原告建物と右工場の現実に使用されている六つの排出口との位置関係はおよそ別紙配置図記載のとおりで、これらの排出口と原告建物とは極めて接近しているうえ、右排出口は一階建の右工場ののこぎり状屋根の谷間の部分に、高さがわずか一・五メートルで雨よけの傘状囲いをかぶせて立てられており、その南へ瓦約三枚分を隔てた位置には、右排出口より高いのこぎり状屋根の垂直部分がそびえていること、また本件粉じんの排出は、右工場の稼働時間内である午前八時から午後八時ころまで、時には午後一二時ころまでに限られ、原告及びその家族の被る被害も工場の稼働状況や風向、風速等の気象条件等により一定ではなかったが、一般的には梅雨時に悪臭被害が、北ないし北西風の強い日が多い秋から春にかけては粉じんに激しくさらされ、昭和五六年二月二五日、二六日及び同年三月二日の三日間にわたり愛知県がハイボリュームエアサンプラーにより実施した環境調査によると、原告敷地とブロック塀をはさんで北側に隣接する訴外田中武方敷地(別紙配置図記載の付近)における浮遊粉じん濃度は昼間六時間測定した合計値が大気一立方メートル当り、右日付順にそれぞれ八四八マイクログラム(以下「μg」と表示)、五三〇μg、七四九μgであり、原告敷地南端(同配置図記載の部分)におけるそれは一立方メートル当りそれぞれ五二・〇μg、三八・八μg、一二三μgであって、また同年四月に実施した同調査によると、原告敷地北端(別紙配置図記載の付近)における浮遊粉じん濃度は、同じく日中六時間測定した合計値が、同月一四日は大気一立方メートル当り六三八μg、同月一五日は同じく三五七μgであったこと、なお昭和五九年八月に新装置の第一期工事が完了後六台のブースを稼働させ、そのうち四台から出る粉じんを新装置で処理した状態で環境測定をなした結果も、前記地点における浮遊粉じんの昼間六時間の合計値は大気一立方メートル当り同月七日が三四六μg、同月八日が七一二μgと高濃度を示していたこと、ところで、環境の一般的状態を把握するため愛知県下に設けられている各測定所で測定した浮遊粉じん濃度は、昭和五三、四年当時一日二四時間の合計値が、大気一立方メートル当り多い地点で三〇〇ないし三五〇μg、各測定所の平均が一三〇μgであり、昭和五八、九年ころは更に改善されて二四時間の合計値が一立方メートル当り、多い所で二五〇μg、平均が九〇μg程度となっているのであって、これらの愛知県下の一般的状態と前記及び地点での各測定結果、なかんずく、右測定のなされた時期及びこれらはいずれも六時間の合計値にすぎず被告光田の工場の稼働時間はこれより長いことなどを総合対比すると、前記及び地点における粉じん濃度は日常的に、愛知県下における粉じんの一般的濃度の二倍ないし数倍を超えていたこと、原告は、被告光田の工場から反対側に位置する原告建物東側の居間をサッシ窓に改造し、ここを中心として、粉じんがもうもうと浮遊降下する時は外出時や室内にあってもマスクを着用したり、暑くて眠れない夏の夜は自動車で他所へ避難するなどして生活していたが、原告が昭和五六年五月ころから慢性気管支炎との診断のもとに通院したり、二女が生後まもなくから虚弱体質で通院を重ねたりしていたことなども重なり、遂に昭和五七年三月家財道具の一部を残したまま家族と共に一旦親戚方へ身を寄せ、その後民間の借家へ一時住まった後請求原因1記載の市営住宅へ移り住んでそのまま現在に至っていること(原告一家が同所に移転したことは当事者間に争いがない。)が認められ、これに反する証拠はない。

他方、《証拠省略》を総合すると、被告らの主張1記載の事実及び同2記載の事実並びに昭和五七年に訴外田中武、同洋子及び原告とその妻が相次いで愛知県公害審査会へ申立てた粉じん排出防止等に関する調停(原告及びその妻が右調停を申立てたことは当事者間に争いがない。)の席上、被告光田は同調停委員会の指導のもとに新たにより精度の高い粉じん処理装置を設置したいとしてその具体案を提示するなどし、粉じん防除へ向けて努力を重ね、排出口の位置変更を求めた原告及びその妻との調停は不調となったものの、田中らとの間では、新装置の第一期工事が完了した後の昭和五九年一一月一九日、新装置の第二期工事も行うなどを内容とする調停が成立したこと、また原告が昭和五八年四月一宮簡易裁判所へ申立てた粉じん排出差止の調停は(原告が右調停を申立てたことは当事者間に争いがない。)、原告が高額の賠償金の支払を求めるなどし合意に至らぬまま取下げに終わったことが認められ、これに反する証拠はない。

以上認定の事実を総合考慮すると、被告光田が昭和五五年三月ころから本訴が提起された昭和五八年一二月ころまでの間になした本件粉じんの排出行為は、取締法規違反や害意までは認められないとはいえ、社会的な受忍限度を超えた違法なものであったというべきである。

3  故意過失

前項で認定した事実に、《証拠省略》を総合すると、被告光田は、昭和五五年四月一宮市から注意を受けたことで近隣住民より粉じんの苦情が出ていることを知って以来、一部残っていた乾式ブースを水洗式に改めたり、ブースの改良を試みたり、他社の設備を見学したり、新装置の設計見積を依頼したりしたものの、確たる防除効果も上げられぬまま、昭和五六年には一時受注量を増やし、ようやく昭和五七年ころから受注量を減らすとともに昭和五八年ころからは塗装対象物を小型化したものの、本訴が提起されるころまで粉じんの排出を十分減少させるには至らなかったことを認めることができる。

右の事実によれば、被告光田は遅くとも被害の発生を知った昭和五五年四月には、有効適切な被害防除装置が整備されるまで塗装の対象物を充分小型化しあるいは仕事量を充分減少させる等して、近隣に被害を及ぼすことのない程度と方法で操業をなすべき、塗装業を営むものとしての注意義務があったのにこれを怠ったため、前記被害が発生継続したと認められるから、これらの被害は被告光田の故意又は過失に基づくというべきである。

4  損害

以上説示したところによると、原告及びその家族は被告光田の故意又は過失により、遅くとも昭和五五年四月から原告建物で生活していた昭和五七年三月ころまでの間、前記の一般的健康被害、生活被害、農作業被害等を受けたことが明らかであるところ、《証拠略に》によると、そのため原告は、自宅がありながら原告建物に居住できなくなり(引越の理由は他の事情も重なったためであることは前記説示のとおり。)、引越費用、家賃等を支払い、妻が自宅でなしていた内職の途を奪い、目張り材及びビニール製シートを購入して雨戸の透き間を塞いだり原告建物の北側を覆ったりし、また会社勤めであるところ休暇を多くとったことから勤務先より進退を問われる身となったことが認められる。

これらの事実によって、原告が自分自身及び一家の支柱たる立場にある者として多大の精神的苦痛を被ったことは想像に難くないところ、その被害の内容・程度・期間、侵害行為の程度・態様、結果回避のため双方がなした努力等先に認定した一切の事情を総合考慮すると、その慰謝料額は二〇〇万円をもって相当であると認めることができる。

次に、原告が本訴を提起しこれを遂行するうえで弁護士に依頼したことにより支払う金員のうち二〇万円は、本訴に至る経緯、立証の難易等に照らし被告光田の侵害行為と相当因果関係に立つ損害に該たると認めるのが相当である。

二  被告会社に対する請求について

前記一2に認定した事実に、《証拠省略》を総合すると、、被告会社は、自動車・弱電関係の塗装を業としていた昭和五五年三月ころ被告光田との間で、被告会社が元請した塗装の仕事の一部を被告光田に継続的に下請させる旨の契約を結んで同被告との取引を開始し、以来昭和五七年一二月一日に被告会社の弱電部門が訴外株式会社ワコーに移譲されるまでの間被告光田へ継続して塗装の仕事を発注していたこと、被告光田がなしていた塗装の仕事は、昭和五五年五月ころから事実上被告会社からの受注一本となっていたこと、被告会社は、遅くとも昭和五六年初めころまでには、被告光田の工場から排出される粉じんが近隣住民に被害を与えていることを知ったこと、そこで被告会社は、被告光田に対しブースの改良や整備点検を指示したり、効率のよい粉じん除去装置の見学のため他社を紹介したりしたものの、充分な防除効果を上げさせることができないまま、昭和五六年には一時発注量を増やし、ようやく昭和五七年ころから発注量を減らしたが、粉じん防除のためのさしたる効果を上げることができなかったことを認めることができ、これに反する証拠はない。

これらの事実によれば、被告会社は、遅くとも被告光田の工場から排出される粉じんで被害が発生していることを知った昭和五六年初めころには、被告光田の工場からの粉じん排出状況や塗装対象物の大きさ、発注量等を総合検討し、対象物及び仕事量が右工場の設備等と対比し近隣住民に粉じん被害を生じさせない限度内にあることを事前に十分確認した上で被告光田に対し仕事を発注すべき注文者としての注意義務があったのにこれを怠ったと認められるから、被告会社は被告光田に対する注文又は指図につき過失があったというべきである。

従って、被告会社は原告に対し、昭和五六年初めころから昭和五七年一一月ころまでの注文によって原告が被った損害について被告光田と連帯して賠償すべき義務があるというべきであり、右損害を金銭で評価すると一五〇万円を下らないと認めるのが相当である。

次に原告が弁護士に支払うべき金員のうち一五万円は、右過失と相当因果関係に立つ損害として、被告会社は被告光田と連帯して支払う義務があるというべきである。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告光田に対し二二〇万円、被告会社に対し一六五万円(被告らは一六五万円の限度で連帯責任を負う。)及びこれらに対するその履行期後である昭和五八年一二月一四日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 畑中芳子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例